電子ペーパー表示技術におけるソフトウェアエコシステム構築の必要性

電子ペーパー(E Ink)表示技術の発展

電子ペーパー(E Ink、エレクトロフォレティック・インク)表示技術の発展は、これまでに約25年の歴史があります。 この技術は、1996年にアメリカの物理学者ジョセフ・ジェイコブソン(Joseph Jacobson)氏と、 彼が率いるチームによってMIT(マサチューセッツ工科大学)メディアラボで発明されました。 その後、1997年に彼の学生たちが「E Ink社」を設立しました。 当初、E Ink社はPhilips社と提携していましたが、 当時はこの技術の応用分野がまだほとんどなく、事業が十分に展開できませんでした。 そこで2005年からPhilips社は、自社の電子ペーパー事業と、E Inkに関するすべての特許を台湾の「元太科技(E Ink Holdings)」に売却しました。 [註1]その後、元太科技(E Ink Holdings)が電子ペーパー技術をさらに発展・改良させていきました。 私がこの技術に初めて触れたのは2007年、台北国際発明展を見学したときでした。 省電力でありながら、まるで印刷物のように見える表示に強い印象を受け、 「この技術には大きな可能性がある」と感じたのを覚えています。 ただし、当時は応用分野がまだ限定的で、主に電子書籍リーダー向けにしか適していませんでした。 (ちなみに、その年はちょうどAmazonが初代Kindleを発表した年でもあります。) その後、技術は大きく進化していきます。 ページ送り速度の向上 解像度やコントラストの改善 ファームウェアやソフトウェアアルゴリズムの進歩 製造プロセスの歩留まり向上 こうした改良が積み重ねられた結果、 2017年頃からは、手書きペン対応の大画面ノート型リーダー製品が登場するようになりました。

一方、カラー電子ペーパー表示技術もまた、十数年にわたる試行錯誤の歴史を歩んできました。 当初、この技術は電子棚札(Electronic Shelf Label, ESL)として活用されていました。 そして2020年、元太科技(E Ink Holdings)は「カラー電子ペーパー元年」と位置づけ、 カラーフィルタ技術(E Ink Kaleido)を用いたカラー電子書籍リーダーが初めて登場しました。 さらに、色付きインク粒子を利用したカラー表示技術(Advanced Color ePaper, ACeP)も 近年大きく進化し、ページ送り速度が大幅に向上しました。 まだ現時点では多くのアプリケーションの要求を満たすレベルには達していませんが、 将来的には必ず技術的なボトルネックを克服できると信じています。 最近の噂では、サンプル出荷された第2世代ACeP技術が 今年中頃に電子書籍リーダーに搭載される予定とのことです。 もしこれが事実であれば、すでに技術的課題が解決された可能性が高いのではないでしょうか?!

2022/05/23更新:元太科技は、先月開催されたTouch Taiwan展にて、 最新世代のACeP技術であるGallery 3を発表しました。 リフレッシュ速度は大幅に向上し、 標準リフレッシュモード:750ms ~ 1000ms 高速リフレッシュ:500ms 最高画質カラーリフレッシュ:1500ms となっています。 現在(発表から1年半後の今日)時点では、ACeP技術を搭載した電子書籍リーダー製品はまだ市場に登場していません。 しかし、Gallery 3の色彩表現とリフレッシュ速度を考えると、すでに実用レベルに達しており、 あと1~2年以内には電子書籍リーダーが発売されるだろうと期待されています。 最新世代ACeP技術 Gallery 3 のカラー表示の効果を見てみたい方は、こちらを参考にしてください: 『E Ink Gallery 3のカラー表現』

25年という発展の歴史は長く感じられますが、 ある技術が概念として提案され、研究室で試作機が作られ、さらに商用化されて一般に普及するまでには、少なくとも20~30年が必要です。 例えば半導体コンピューターを例に挙げると、 トランジスタの誕生(1948年) コンピューターの商用化開始(1973年) パーソナルコンピューターの一般普及(1980年) この間、実に32年もの年月がかかっています。 その他の技術、たとえばタッチスクリーンや顔認識技術も同様です。 電子ペーパー技術が現在位置している段階を、技術普及ライフサイクル(Technology Adoption Life Cycle)で見ると、 すでにアーリーアダプター(Early Adopters:初期採用者)のフェーズに入っています。 これからカラー製品が次々と登場してくることで、アーリーマジョリティ(Early Majority:初期大衆)に受け入れられる段階へ進む可能性が出てきます。 しかし、同時に「キャズム(Chasm:死の谷)」と呼ばれる壁を乗り越えなければ、 一般に普及して人類社会における未来の紙の形となることはできません。

電子ペーパー表示技術は現在、アーリーアダプター(Early Adopters:初期採用者)段階にあります。 しかし、大衆に受け入れられる前に、「キャズム(Chasm:死の谷)」と呼ばれる壁を乗り越える必要があります。

時期が徐々に成熟してきている

現在の発展状況を見ると、電子ペーパー技術が「キャズム(死の谷)」を乗り越えることはそれほど難しくないと考えられます。 なぜなら、電子ペーパーは天の時・地の利・人の和という有利な条件を備えているからです。 第一に、電子書籍のビジネスモデルが徐々に成熟してきていることが挙げられます。 ますます多くの著者や出版社が電子書籍の出版に積極的になり、 電子書籍の市場シェアは年々拡大しています。 さらに、電子書籍を読む人口も年々増加しています。 第二に、インターネットの普及とクラウド活用の成熟があります。 多くの資料や文献が急速にデジタル化されており、 近年では政府機関、教育機関、企業、医療機関などでも、 膨大な資料が次々とデジタル化されています。 そして、文字や画像を含む資料を表示するのに最も適しているのは依然として紙の形式であり、 発光スクリーンではないのです。(理由については以下を参照) 『電子ペーパーディスプレイのメリット』『バックライト式スマートフォンやタブレットが目に悪い理由』)第三に、眼の疾患を持つ人口が年々増加している傾向があります。 これは遅かれ早かれ、大衆が目の健康問題に関心を持ち、 発光スクリーンが目に与える悪影響を重視するきっかけになるでしょう。

電子書籍を読む人口は年々増加傾向にあります。(台湾に関しては関連資料2を参照してください)

上記のような有利な外部環境要因があるとはいえ、電子ペーパー表示技術が本当に大衆に受け入れられるためには、ユーザーエクスペリエンスの部分に十分配慮する必要があります。 これはハードウェアだけでなく、ソフトウェアにおいても同様です。 ハードウェアのエコシステムについては、電子ペーパー表示技術が年々成熟してきた結果、近年ようやく形成されつつあります。 現在では、多くのメーカーがこの分野に参入し、電子ペーパースマートフォンや電子ペーパータブレットなど、さまざまなデバイスを開発し始めています。 こうした進展によって、ソフトウェア面での派生的な応用も次々と可能になってきました。 そして、ここから先で最も重要になるのが、電子ペーパー表示用ソフトウェアのエコシステムを構築することです。 これを読んだ人の中には、 「今でもすでにソフトウェアのエコシステムが存在しているのでは?」 と疑問に思う方もいるかもしれません。 しかし、現時点で存在しているのは「発光型スクリーン向け」のソフトウェアエコシステムであり、 「電子ペーパー表示機器専用」のソフトウェアエコシステムではありません。 私はこの点を… 『電子ペーパーディスプレイのメリット』 の中で電子ペーパーディスプレイは「画面」ではなく「紙」に分類されるべきであると強調しました。 したがって、両者のソフトウェアエコシステムは完全には互換性がありません。 ここからは、なぜ電子ペーパーディスプレイ専用に設計されたソフトウェアエコシステムを構築する必要があるのかを分析していきたいと思います。

電子ペーパー表示技術におけるソフトウェアエコシステムの重要性

ソフトウェアエコシステムの充実度は、ハードウェアの生死や成功を大きく左右する要素です。 その典型例がモバイルデバイスの歴史にあります。 2007年、AppleのCEOであったスティーブ・ジョブズが初代iPhoneを発表しました。 しかし、実際に発表されたのはiPhoneというハードウェア単体だけではありませんでした。 確かに、iPhoneのハードウェアは当時の世界にとって革新的でした。 従来の物理ボタン式携帯電話とは一線を画す、完全タッチパネル設計は大きな驚きでした。 ですが、もしその時にハードウェアだけしか存在していなかったなら、 iPhoneはこれほどの大ヒットにはならず、短期間で従来型携帯を駆逐して主流になることもなかったでしょう。 ジョブズの本当のすごさは、ソフトウェアエコシステムの重要性を深く理解していたことにあります。 彼は本当に勝敗を分ける鍵はハードウェアではなくソフトウェアにあると確信していました。 そのため、iPhoneを発表した同じ場で、彼は初代iOS(当時はiPhone OSと呼ばれていた)も発表しました。 これはスマートフォンとモバイルデバイスのために特別に設計されたOSでした。 さらに、 App Store iTunes 開発者向けソフトウェア開発キット(System Development Kit, SDK) も同時に発表し、一気にソフトウェアエコシステムを完成させたのです。 これらは極めて重要な要素でした。 1. 優れたタッチスクリーン専用OS iOSがあったからこそ、iPhoneのハードウェア性能を最大限に発揮できた。 2. App StoreとiTunesによる新しいビジネスモデル 優秀な開発者やクリエイターが、一流のアプリやコンテンツを提供し、そこから収益を得ることが可能になった。 3. ユーザーの利便性の飛躍的向上 iPhoneユーザーは、App Storeを通じてiPhone専用に設計されたアプリを自由にダウンロードできるようになり、 これにより従来の携帯電話では不可能だった便利で豊かな生活を手に入れることができた。 こうした完全に整備されたソフトウェアエコシステムこそが、 iPhoneをして容易に「キャズム(死の谷)」を越えさせた最大の要因でした。 その結果、高額な価格であっても市場で主流のスマートフォンとなり、モバイルデバイスの新たなスタンダードを築き上げたのです。

電子ペーパー表示技術におけるソフトウェアの現状

現在、電子ペーパーディスプレイを搭載している製品には主に以下の種類があります: 電子書リーダー、ノート型リーダー、スマートフォン、タブレット、デュアルスクリーンスマートフォン、デュアルスクリーンノートパソコン [注2]以下では、各製品タイプごとのソフトウェアの現状について説明していきます。

  • 電子書リーダー

  • 電子書リーダー製品は、主に電子書籍プラットフォーム企業が主導して開発しています。 そのため、システムに内蔵されている電子書籍閲覧ソフトも、プラットフォーム企業自身が開発しています。 各プラットフォーム企業はAndroid版やiOS版の閲覧ソフトも提供していますが、 電子ペーパーディスプレイに搭載される閲覧ソフトは特別に設計されており、 ユーザーインターフェースや操作体験は非常に良好です。 しかし一方で、リーダー内のファイル管理や転送用ソフト(自分でアップロードした外部文書を管理するためのソフト)は、 設計があまり良くない場合が多いです。 これは、プラットフォーム企業がリソースを「読書体験」に集中させており、 ファイル管理機能を軽視しているためだと考えられます。 さらに、電子書籍リーダーのOSは一般的にクローズドシステム(封閉式OS)を採用しているため、 互換性がなく、ユーザーは各プラットフォームごとに別々の端末を選ばなければならないという排他性も存在します。

  • ノート型リーダー

  • ノート型リーダー製品は、一般的にハードウェアメーカーが主導して開発しています。 最大の特徴は、手書き入力用のペンが付属していることです。 OS(オペレーティングシステム)については、ほとんどがクローズドシステム(封閉式OS)を採用しており、 標準で以下のソフトウェアが内蔵されています: ノートアプリ(手書きメモ用) 描画ソフト 電子書籍リーダーアプリ ファイル管理・転送ソフト 基本的に、ハードウェアメーカーが電子ペーパーディスプレイ専用にソフトを設計しているため、 内蔵ソフトの操作体験は比較的良好です。 また、ファイル管理機能も比較的優れており、たとえばSony DPT-RP1のファイル同期ソフトなどは、 ユーザーにとって使いやすい設計になっています。 ただし、ソフトウェアの機能性がどれだけ高いかは、メーカー自身の開発力に大きく依存します。 もしソフトウェア開発チームの実力が弱い場合は、機能が非常にシンプルになり、 結果としてハードウェアの販売が伸び悩むことになります。 (電子書籍プラットフォームのように「書店」という強力な後ろ盾がないためです。)

  • スマートフォン、タブレット、デュアルスクリーンスマートフォン

  • このタイプの製品は、近年増加傾向にあります。 その主な理由は、 電子ペーパーディスプレイのリフレッシュ速度が改善されたこと ソフトウェアで画面のリフレッシュレートを調整できるようになったこと にあります。 これにより、本来は高速リフレッシュを必要とし、発光型スクリーンのモバイル端末でしか使えなかったアプリが、 電子ペーパーディスプレイ上でも利用可能になりました。 実際の使用時も、極端なフリッカーやカクつきが抑えられるようになったのです。 そのため、こうした製品は主にオープン型のモバイルOS(Androidが中心)を採用しており、 ユーザーはOSのアプリストアから自由にソフトをダウンロードしてインストールできます。 しかし問題は、これらのアプリ自体が電子ペーパー製品向けに設計されていないという点です。 そのため、確かに利用は可能ですが、ユーザーインターフェースや操作体験は理想的とは言えません。

  • デュアルスクリーンノートパソコン

  • このタイプのデバイスは、基本的にデスクトップパソコン用のOSを採用しています。 発光ディスプレイがメインディスプレイとして使用され、 電子ペーパーディスプレイはあくまで補助的なサブディスプレイとして扱われます。 そのため、ソフトウェアのユーザーインターフェースやユーザー体験はデスクトップ用途を前提に設計されており、 電子ペーパーディスプレイ向けに特別な最適化は行われていません。

    以下のカテゴリは2022/05/23更新:

  • 電子ペーパーディスプレイ

  • ディスプレイ製品は、基本的には外部モニターと同じコンセプトです。 近年では、25.3インチの大型モデルも登場しています。Paperlike 253,そして、BOOX(文石)製のモデルもあります。13.3インチのBoox Mira と 25.3インチのBoox Mira Proなどがあります。このタイプの製品は、どのデバイスに接続するかによって利用するOSが変わります。 デスクトップPCに接続する場合 → 主に Windows または MacOS タブレットに接続する場合 → モバイルOS(Android / iPadOSなど) これらの外部ディスプレイ製品は、 リフレッシュ速度が十分に速い CPUの処理能力が高い 電源やバッテリー持ちを気にする必要がない といった利点があります。 そのため、使用するソフトが電子ペーパーディスプレイ向けに設計されていなくても、動作がスムーズで、ユーザー体験が極端に悪くなることはありません。 しかし、もしソフトウェアが電子ペーパーディスプレイの特性に合わせて設計されれば、さらに完成度が高まり、理想的な体験を提供できるでしょう。

これまで述べてきた製品の順序は、基本的に技術進化の順番に沿っています。 電子ペーパーデバイスの発展傾向としては、クローズドOSから徐々にオープンOSへと移行していくと考えられます。 なぜなら、クローズドOSではユーザーに「どちらの陣営を選ぶか」を強制することになり、 読者にとって非常に不便 追加機能の拡張ができない といった問題があるからです。 しかし、これまで説明してきたとおり、電子ペーパーデバイスがオープンOSを採用した場合には別の課題が発生します。 それは、端末に標準搭載されているアプリ以外のアプリは、電子ペーパーディスプレイ向けにUIやUXが設計されていないということです。 そのため、ユーザーはアプリストアから自分が普段使っているスマホやタブレット向けのアプリを試しにダウンロードし、 たまたま電子ペーパーディスプレイでも使いやすければラッキー、という状況になります。 しかし残念ながら、ほとんどのアプリは良い使用体験を提供できません。 なぜなら、開発者はそもそも電子ペーパーデバイス向けにソフトウェアを設計していないからです。 そのため、将来的に電子ペーパーハードウェアメーカーは深刻な問題に直面することになります。 それは、ハードウェア販売を支える強固なソフトウェアエコシステムが存在しないという問題です。 発光型スクリーンのモバイルデバイス向けに設計されたアプリは、そのユーザーインターフェースやユーザー体験が電子ペーパーディスプレイには適していません。 誤ったユーザーインターフェースはユーザー体験を損なう原因となり、 電子ペーパーディスプレイに初めて触れるアーリーマジョリティ(初期大衆)に悪い第一印象を与えてしまう可能性があります。 さらには、電子ペーパーデバイスはスマートフォンやタブレットよりも実用性が劣ると、誤って判断されてしまう可能性すらあります。

ユーザーインターフェースは購入意欲に大きな影響を与えます。

なぜソフトウェアのインターフェース設計がそれほど重要なのか? これを説明するために、パーソナルコンピューターの例を挙げてみましょう。 当初、パーソナルコンピューターが商用化され始めた頃、OS(オペレーティングシステム)はすべてコマンドラインインターフェース(Command-Line Interface, CLI)でした。 つまり、キーボードからコマンドを入力することで初めて操作が実行されるという仕組みです。 画面表示も一行ずつの文字とコマンドだけで構成されていました。 このタイプのOSで最も有名なのが、DOS(Disk Operating System)です。 しかし、コマンドラインインターフェースでは利用者がすべてのコマンドを暗記する必要があり、 これが一般ユーザーの学習や操作の難易度を非常に高くしてしまいました。 その結果、パーソナルコンピューターが登場した当初は主に企業や機関でのみ使用され、一般大衆に普及することが難しかったのです。 ところが、1983年にAppleがグラフィカルユーザーインターフェース(Graphical User Interface, GUI)を採用した初のパーソナルコンピューターを発表します。 続いてMicrosoftもWindows OSを次々とリリースしました。 GUIは見ただけで直感的に理解できるため、 マウスでアイコンをクリックするだけで操作ができるようになり、 学習のハードルを大幅に下げ、ユーザー体験を劇的に改善しました。 この変化によって、パーソナルコンピューターはついに一般家庭にも広く普及していったのです。

ソフトウェアの機能やインターフェース設計は、消費者がハードウェアを購入する際の選択にも大きな影響を与えます。 例えば、Readmoo(讀墨)の電子書籍リーダーの場合、 中国語を縦書きで右から左へ表示できるインターフェース設計があります。 これは中国語圏の人々にとって慣れ親しんだレイアウトであり、 この機能があるからこそMooinkリーダーを選び、他社製品を購入しない人もいるのです。 また、Kindleには以下のような特徴があります: 文字を反転表示すると、すぐに辞書の説明が表示される 単語帳に追加できる機能がある インターフェース自体が非常に使いやすい そのため、言語学習をしたいユーザーは、この特徴を理由にKindleを選ぶこともあります。

電子ペーパーディスプレイ向けに設計されたソフトウェアが持つべき特徴

実際、電子ペーパーディスプレイ専用ソフトウェアを開発する際に必要な基本原則は一つだけです: > できる限り画面の更新(リフレッシュ)を減らすこと そのため、設計時には以下のポイントを意識する必要があります:

  • スクロールではなくページめくりを採用する [注3]
  • ツールバーを非表示(必要時のみ表示)にする
  • 不要なアニメーションを減らす
  • 画面をエリアごとに分割して設計する(固定エリア・更新頻度が低いエリア・更新頻度が高いエリアに分ける)
  • すべてのテキスト入力欄は、仮想キーボード画面を表示せずに、リアルタイム手書き入力およびリアルタイム音声入力に対応すること。
  • 動画やアニメーションはフレーム単位で表示するのではなく、ドット単位で表示し、さらに事前にアルゴリズムで処理して画面更新率をできる限り下げる。
  • マルチスクリーン対応の画面設計(将来的には電子ペーパーデバイスが本のように複数画面を持つことを想定)

「今の技術なら画面のリフレッシュレートを調整できるのだから、 リフレッシュレートを速くすればスクロール表示も可能だし、動画やアニメーションも見られるのでは?」 こう言う人もいます。 しかし、ここには根本的な問題があります。 電子ペーパーの最大の利点は、インク粒子が動いていないときには電力を消費しないという点です。 もし画面を常にスクロール表示したり、動画やアニメーションを再生したりすれば、 インク粒子は常に並び替えを行わなければならず、結果として電力を消費してしまいます。 (※それでも発光型ディスプレイほどではありませんが。) さらに、リフレッシュレートを上げると残像問題が発生します。 これは、インク粒子の移動速度が光速には到底及ばないためです。 つまり、いくら技術的に可能であっても、無理に発光型ディスプレイと同じ設計にするべきではないのです。 インターフェース最適化の目的は、 「できる限り電子ペーパーに適した方法で設計し、ユーザーに最良の体験を提供すること」にあります。 したがって、あくまで電子ペーパーの特性を活かしたデザインを選ぶべきなのです。

例例えば、現在のWebデザインにはレスポンシブ・ウェブ・デザイン(Responsive Web Design, RWD)という考え方があります。 これは、異なるサイズのモバイルデバイスに合わせて自動的に表示を最適化し、コンテンツが乱れないように調整する仕組みです。 同様に、電子ペーパー専用のWebブラウザも必要です。 このブラウザでは、 Webサイトの内容を自動的に固定レイアウト形式に変換 文字が溢れた場合は自動的にページ分割し、ページめくり方式で表示 といった機能を備えるべきです。 また、現在のブラウザにはテキスト表示に特化した「リーディングモード」がありますが、 これを電子ペーパーに適用する場合は、スクロール表示ではなくページめくり表示に切り替える必要があります。 さらに、画面を即座にPDFファイルへ変換できる機能を備え、 ユーザーがそのPDF上に直接注釈を書き込めるようにすることも重要です。 [注4]しかし、上記の要求を実現することは決して容易ではありません。 これを実現するためには、新しいアルゴリズムを開発する必要がある可能性が高いです。 具体的には、人工知能(AI)やディープラーニング(深層学習)を活用し、 コンテンツをどのように分割・配置すれば最適な固定レイアウトになるのかを自動的に判断する仕組みが求められます。

2022/05/23更新:現在、コミュニティメンバーのDaniel Kaoさんが、電子ペーパーディスプレイ専用に設計されたWebブラウザ「EinkBro」を開発しています。 このブラウザは、従来スクロールして閲覧していたWebページを、ページめくりに近い操作で移動できるようにするもので、 電子ペーパーでのWeb閲覧体験をより快適でスムーズにしてくれます。 そのため、電子ペーパーデバイスでインターネットを利用したい方には、このブラウザの使用を強くおすすめします。 Google Play ダウンロードリンク: EinkBroまた、多くのメーカーの電子書籍リーダーには、アニメーションフィルタ機能が搭載されています。 これにより、高画質リフレッシュモードでも不要なアニメーションを自動的にカットし、画面のフリッカー(ちらつき)や残像を軽減することができます。 BOOX(文石)端末のユーザーで、アニメーションのフィルタリング方法がわからない方は、 以下の2つの記事を参考にしてみてください。 『BOOXアプリ最適化リフレッシュモード設定テクニック』『BOOXリーダーでのKindleアプリ刷新・表示設定ガイド』

ライトテーブルの形式は、電子ペーパーでページを探すのに非常に適しています。
ドロップダウンメニュー、フローティングボール、隠しツールバー(ドック)など、あらゆる隠しメニューは、電子ペーパーに非常に適しています。 なぜなら、紙の特性として「主要な内容はページ全体を使って完全に表示されるべき」だからです。 ツールバーは、必要なときだけ表示される形が理想的です。 そのため、画像内のタイトルやツールバーは隠し表示にして浮かせるのが望ましいです。 また、画像が端で切れてしまっている様子からもわかるように、 これはスクロール式表示の欠点の一つです。

根本からの改善

最も理想的な方法は、根本的な改善を行い、電子ペーパー専用のオペレーティングシステム(OS)を新たに開発することです。 そのOSには、ソフトウェア開発キット(SDK)が標準で提供され、 開発者が様々なアプリケーションプログラミングインターフェース(Application Programming Interface, API)を直接利用できるようにします。 これにより、アルゴリズムを一から何度も開発し直す必要がなくなるのです。 このような専用OSがあれば、 ハードウェアメーカーはハードウェア開発に集中できる ソフトウェア部分は専門のソフトウェア企業や個人開発者がアプリを開発し、ストアで提供できる という分業体制が整い、より効率的なエコシステムが構築されます。 (例えば、EinkBro のようなものです。)ユーザーは自分のニーズに応じてアプリを購入できるようになります。 このように専門分業が進むことで、 ユーザーは質の高いアプリケーションを快適に利用できる ソフトウェア開発者は適切な収益を得られる という好循環が生まれます。 これにより、優れたソフトウェアやアルゴリズムが次々と誕生し、さらに電子ペーパー技術全体が発展していくことにつながるのです。 プラットフォーム系の書店も、自社専用の電子書籍リーダーをわざわざ開発する必要がなくなります。 [注5]その代わりに、この専用オペレーティングシステム上で、自社の電子書籍リーダーアプリを最適化することに集中できるようになります。

もし専用オペレーティングシステムの開発が実現不可能な場合、 もう一つの方法としては、Androidシステムをそのまま利用するという選択肢があります。 (例えば、現在のBOOX(文石)のオペレーティングシステム「Boox OS 3.2.2」がその例です。 )しかし、Google Playストア内に電子ペーパーデバイス専用のカテゴリを設けることで、 電子ペーパーデバイスのユーザーが自分の端末に最適なアプリを簡単に見つけられるようにすることができます。 こうすれば、アプリをダウンロードしてから「非対応だった」「使いにくかった」などと気づく問題を避けられます。 この方法によっても、ソフトウェアエコシステムとしてのビジネスモデルを構築することは可能です。 しかし、開発者にとっては少々厄介な点があります。 それは、電子ペーパー専用OSが提供するAPIを利用できず、 Androidの仕組みの中で自分でアルゴリズムを開発しなければならないという点です。

結論

今年から電子ペーパーの発展は重要な時期に入ります。 カラー対応デバイスの発売により、これまでモノクロ端末しかなかったために様子見していた消費者も、試しに購入してみようという気持ちになるでしょう。 そして、ソフトウェアのユーザー体験とソフトウェアエコシステムこそが、電子ペーパー技術が「キャズム(死の谷)」を越えられるかどうかの鍵となります。 一般の消費者は、電子ペーパー表示技術を単なる発光型スクリーンの代替品だと考えがちです。 そのため、購入を検討する際には必ず両者を比較してしまいます。 もしソフトウェアの機能やインターフェースに明確な違いがなければ、 このような誤解が生まれるのも非常に自然なことです。 たとえば、一般消費者はモバイルデバイスとノートパソコンやデスクトップパソコンを直接比較することはありません。 これは、 入力方法が異なる OS(オペレーティングシステム)やアプリケーションインターフェースが異なる といった違いが明確だからです。 同じように、電子ペーパーのソフトウェアエコシステムを確立する目的は、 消費者に対して「電子ペーパーデバイスはスマートペーパーであり、発光型スクリーンではない」ということを明確に伝えることにあります。 これにより、本当の意味で市場を区分けし、 両者の市場は対立するものではなく、共存できるものだという認識を広めることができます。 本記事を通じて、 電子ペーパー表示技術のソフトウェア開発者とハードウェア開発者が協力し合い、ソフトウェアエコシステムを構築する 新興企業が新しいアルゴリズムや革新的なキラーアプリを開発するヒントとなる ことを願っています。 これによって、電子ペーパー表示技術の発展がより一層進み、より完成度の高い形に近づくことを目指します。

注釈

注1、元太科技は、台湾の製紙グループ「永豊余(YFY)」傘下の子会社です。

注2、その他にも商用デバイスがありますが、本文はすでに長くなっているため、ここでは詳しく述べません。

注3、ここで言う「スクロール」とは、スクロールバー(scrollbar)があること自体を指すのではありません。 スクロールバーは画面外にコンテンツがあることをユーザーに示すための目印として利用できますが、 実際の動作としてはスクロール操作を行っても画面全体を一度に更新し、 スクロールバー自体はステップ(段階的)で動く設計とします。 こうすることで、コンテンツが画面の端で切れてしまうことを防ぐことができます。

注4Readmoo(讀墨)のMooinkはノート型リーダーに分類されますが、 自社の電子書籍リーダーソフトがリフロー型レイアウト(流動版面)を採用しているため、 手書きペンで直接注釈を加えることができません。 手書きペンで注釈を入れる場合は、 手書きノートモード用の別アプリ PDFファイル用の別アプリ と分かれているため、ユーザーが混乱してしまい、使用体験が悪化する原因となっています。 もし、リフロー型レイアウトをリアルタイムで固定レイアウトに変換できるアルゴリズムを開発し、 これらを一つのソフトウェアに統合することができれば、 こうした問題は解消され、スムーズで快適なユーザー体験を提供できるようになるでしょう。 2022/05/23更新:Readmoo(讀墨)の自社電子書籍ストア用リーダーソフトは、昨年10月頃から順次アップデートされ、 リフロー型(ePUB)と固定レイアウト型(PDF)の両方で手書き入力機能をサポートするようになりました。

注5、Amazonが当時自社専用の電子書籍リーダーを開発する必要があったのは、 当時の市場環境では電子ペーパーを採用したe-Readerを開発している企業がほとんど存在しなかったためです。 (Sonyを除いてはほぼ皆無でした。) その意味で、Amazonは非常に先見の明を持った企業だったと言えます。 しかし現在では状況が大きく変わっています。 後発のプラットフォーム企業が自社で専用リーダーを一から開発することは推奨されません。 それよりも、ソフトウェアの最適化に注力し、オープンシステムで利用できる形で提供することが望ましいと言えます。


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Jack Black
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